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その5:「だんだん食事が取れなくなってきた」その後を考える

「だんだん食事が取れなくなってきた」その後を考える

 高齢になると、段々と食事量が減り、食事が食べられなくなっていきます。多くの医療従事者がターミナルケアを考える時期の一つに、「経口摂取が出来なくなったとき」をあげます。皆さんはご家族が入院中に、病院から「食事が食べられなくなったら今後どうしますか?」と選択を迫られた時、あなたならどうしますか。私達、訪問看護師は、そういうご家族、ご本人様に寄り添いながら色々な助言や看護を行ってきました。今回は、その一部をご紹介いたします。

① Aさんの選択(胃ろう)

 Aさんは、50歳を過ぎた頃、くも膜下出血で倒れ、30年以上自宅にて療養されていました。80歳を過ぎ、徐々に食事が食べられなくなり入院。入院中に胃ろうを作り自宅に戻られました。胃ろうは、お腹から胃にチューブを入れ、そこから、栄養剤を注入する方法です。
胃ろうを選択された理由は、自宅で介護されている方が50歳代の娘さんであり、胃ろうの管理が十分行える状況であったからです。胃ろうは食事同様、ご家族が人肌程度に暖め、時間をかけてゆっくりと注射器や注入用の袋から、胃の中に栄養剤を入れていかなければなりません。そのため、時間も手間もかかります。また、お腹に入っているチューブが抜けることもあるので、定期的に皮膚の観察なども行っていく必要があります。さらには、3ヶ月~4ヶ月に1回は胃ろうの交換を行いに病院受診しなければなりません。これらのことを考慮しても、娘さんであれば十分な介護能力があったことから、胃ろうの選択になりました。訪問看護師としては、娘さんのサポートとして、胃ろうの管理、注入量や食事、排便の状態等の観察を一緒に行いました。

訪問看護師としてケアで特に気をつけたこと

 人間の体は、皮膚に穴が空くと、そこを埋めて直そうとします。そのため、毎日、胃ろうを動かさないと、管に肉が巻いてしまいます。その結果、肉芽というイボのようなものが胃ろう部分に出来て出血したり、管が動かなくなったりすることがあります。また、感染を起こして膿が出る人もいます。 訪問看護師は、訪問時に、皮膚の状態を観察し、肉芽の状態や感染徴候を見逃さないように観察し、肉芽がある場合は、必要な処置を行います。また、胃の中で、管が破裂し、抜ける場合もありますので、細心の注意を払っています。

② Bさんの選択(IVHポート)

Bさんは、89歳で寝たきりとなり、徐々に食事量が減っていきました。検査の結果、特に異常はなく、高齢により食事が取れなくなったとの診断結果でした。介護者は、90歳の旦那様で、献身的に食事を作り、食べさせていたのですが、Bさんは口に物を入れると吐き出すようになり、1~2口程度しか食べられなくなりました。老衰のため、何もしないという選択肢もありましたが、ご家族さまの意向もあり、IVHポートを作ることとなりました。

胃ろうを選択しなかったのは、介護者が高齢であり、注入を行うほどの介護力が無いことと管理が難しい状況であることからです。そこで、IVHポートを利用し訪看護師による24時間点滴を行うこととなりました。IVHポートは、カテーテルが血管内に接続されており、ポート部分を皮膚の下に植え込んだものです。点滴を行う場合は、皮膚の上から専用の針でポートの真中に針を刺します。24時間持続でき、動いたために点滴が漏れて差し替えを行うこともほとんどなく、訪問看護師が処置等を行うことから、高齢な介護者には、管理が容易であると思います。IVHポートも胃ろう同様、IVHポートを作った後でも口から食することは可能です。90歳の旦那様は、Bさんが食べたいというものを、少しでも食べさせてあげたいと意欲的に介護されていました。

訪問看護師としてケアで特に気をつけたこと

 IVHポートは、ポートのゴム球部分に正しく針が刺さらないと皮膚に薬液が漏れて、感染を起こす危険があります。また、針を強く押し付けたり、専用の針を使わないとポートが破損する危険性があります。ご利用者様が、誤って自己抜去しないように、針の固定方法にも常に気をつけて処置を行っています。

③Cさんの選択(必要最低限の医療のみで特別なことは行わない)

 70代の娘さまお二人(姉妹)がご自宅で介護していた90代のCさんは、食事を食べられなくなり担当の医師から、「老衰だからもう何も治療することがない」と説明を受けました。 徐々に食事が食べられなくなり、日に日に痩せていく母Cさんを見ながら、ご家族さまから私たち訪問看護師に「家で何か出来ることはないですか」と相談をいただきました。

私達訪問看護師は、カンファレンスを行い、担当の医師にご家族さまの思いを伝え、1日に必要な最低限の点滴を行ってもらえないかと、お願いに行きました。点滴を入れすぎると、体が腫れて、心臓に負担がかかります。そのため、医師は、点滴をするのをはじめは拒みましたが、残される家族の思いも汲んでほしいことを説明し、点滴を行うことが決まりました。 わずかな量の水分しか身体に入りませんが、家族にとっては、「出来る限りの治療をした、手を尽くした」という思いが、その時残ったのではないでしょうか。

90代のCさんがお亡くなりになった時、「本当に自宅で介護することができ、うれしかった」と、涙を流され大変感謝されていたのを今でも覚えています。看取りを行うことは、ご本人さまだけでなく、介護される方を含めた看護が必要なのだと強く感じた看取りでした。

 老衰と判断された場合、胃ろうやIVHポートは延命治療になる為、医師は、ご家族さまの強い希望がない場合、選択することはありません。ご家族さまには、食べられるものを食べさせるように説明されます。ご家族さまも、はじめは、医師から説明を受けたとおりに介護されていますが、何も口にしなくなると、何もしないということに耐えられなくなります。それは、ご家族は身内という「ご本人さまに一番近い存在」だからです。弱っていく姿を見るのは辛いことですし、どうにかして助けたい、元気になってほしいと願うものです。

訪問看護師としてケアで特に気をつけたこと

 看取りにむけたケアは、医師にご家族の思いを伝え、自宅で出来る治療として点滴の導入を行います。点滴自体で様態が劇的に改善するわけではありません。点滴という処置を行うことで『最期まで、自分の大切な家族を見捨てずに手を尽くしたい』という思いを汲み取ることが大切だと思っています。看取りを行う場合、ご本人さまが安らかな1日を迎えられることと、ご家族さまの思いが叶えられ満たされる必要があると考えます。

まとめ

 私達、訪問看護師は、ご利用者さまの病状を確実に把握し、適切な栄養、水分補給を行うよう、お手伝いさせていただいております。
病院だけでなく、ご自宅でも、点滴を行ったり、胃ろう、IVHの管理をしながら生活することは可能です。

また、私たちの訪問看護ステーションでは、多くのご自宅での看取りを行って来ました。
ご自宅で最期を迎えるということは、死を待つということではなく、いかに自分らしく最期を生き抜くか、生き方を選択することだと思っています。
私達、訪問看護師は、在宅医やケアマネなど、多くの介護、医療スタッフと連携をとりながら、ご利用者さま、ご家族さまが、安心して自分らしく生きていけるようにサポートさせていただくことが、重要な役割です。

現在、入院中でご自宅に帰られることに迷われている方は、是非、訪問看護をご利用ください。医師、看護師がご自宅に訪問し、「自分らしく」生活できるようにサポートさせていただきます。

※写真及び個人情報については御家族様の許可を得て掲載しております。

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