心に寄り添うことで見えた
本当の気持ち。
エピソード
5
想い出のディナー
ワインと
鰯の甘露煮
今から25年以上前、
介護保険制度もなく、
措置の時代などと言われていた頃の話しです。
特養ですから入所者様にとっては終の棲家。
私達職員もその方の人生最後の時間を
日々一緒に過ごさせていただいています。
どんなにお元気な方であろうと、
人間誰しもその時は平等にやってきます。
今でこそ看取り期のケア計画を元に
多職種連携が当たり前ですが、
当時は本人やご家族にただ寄り添いながら、
最期のお見送りをさせていただくことが
主流だったように思います。
その方は赤いふちの眼鏡をかけ
ショートカットがお似合いの小柄な女性の方。
体力や食欲が落ち、
毎日の食事や水分も
難しくなってこられていました。
何とか少しでも食べられる間にと、
本人に食べられそうなもの、
飲めそうなものを伺ってみると
「私ね、ワインが好きなの。
自宅でもよくワインを飲んでいたのよ。
赤玉ポートワインが飲みたい。
それとね、鰯の甘露煮が好物。」
特養施設でお酒を出すのは
年明けのお屠蘇ぐらい。
看護職員や当時寮母、寮父と呼ばれていた
介護職員と相談し、何とか準備してあげたいね。
と言うことになりました。
本人が希望された赤玉ポートワインは
ワイングラスで食事と一緒に提供しました。
少しずつ味わいながら
「あ~美味しい。」と言われた笑顔が
今でも忘れられません。
鰯の甘露煮は自分の手でむしりながら
「これこれ。」と
やはり笑顔で召し上がられました。
それから間もなく旅立たれました。
亡くなる前に
本人の希望するものを提供できたこと。
本人も美味しいと味わえたこと。
関わった職員も栄養士である私自身も、
最期の時まで食の楽しみ、
食の大切さは続くものであることを
教えていただきました。
今でも折に触れ、
入所者様やご家族様へ好きな食べ物、
得意だった料理などを伺っています。
その方の最期の時まで食のお役に立てるように。
エピソードスタッフ
M.S.(管理栄養士 / 栄養管理食事サービス部)
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